孫子の6つのキーワード
「孫子」とは、「陰陽理論」を軍事で著した書物であると述べました。陰陽理論は自然界の法則といえるものですから、自然界の法則による軍事戦略、政治、経営の書という訳です。そしてこの陰陽理論を立脚していることから、著者は、孫子の6つのキーワードで表現しています。
一つは「相対」の兵法。二つ目は「易」の兵法。三つ目は「全き」の兵法。四つ目は、「中」の兵法。五つ目が「智」の兵法。六つ目は「君主」(ため)の兵法(乱世の帝王学)です。
「相対」の兵法
一つ目は、陰陽理論の基本である、相対です。相対とは、相手がいるということで、その兵法とは、相手に合わせて変化する戦い方ということです。つまり容易に勝てる体勢になるまでまって、勝利は相手次第という考え方です。日本の武士道などでは、乾坤一擲、敵も味方もなく、ただ天地を別つ一撃を放つという「絶対」の境地を説くものがありますが、「孫子」は、その対極の考え方。有利になるまで逃げて、相手の状況に合わせて変化して有利なってから戦います。
日本人は、兎角、根性論が好きな民族でありますから、相対の視点だけで、味方を動かすことができないということを注意点として述べておきたいと思います。
「易」の兵法
二つ目は、「易」の兵法です。これも陰陽理論の考え方です。「易」とが、中国古典の易経の「易」です。本来には、たくさんの意味がある漢字ですが、代表的な二つの意味を紹介します。「かわる」「やさしい」です。つまり「変化」を利用するということと、容易に勝てる体勢を作ることを目指すということです。容易に勝てる体勢であれば、容易に勝つことができ、すごいという評価はありません。当たり前を目指すのが「易」です。
「全き」の兵法
三つ目は、「全き」です。全きは。謀攻篇を中心に使われる孫子の哲学を表す最重要の漢字の一つです。その意味は、戦力を保全するということ、連携させて、抑止力を作り、戦わずして敵と制圧するような勝利を目指す考え方です。哲学的に拡大解釈をすると、「全き」は自己の戦力や国力だけではなく、近隣諸侯の国力を保全し、共存共栄を目指すような視点まで飛躍して使うことができます。「孫子」では「必ず全きをもって天下を争う」とあり、国力戦力を蓄えて抑止力を構築することに、自国と天下の安定があると考えます。
「中」の兵法
四つ目の「中」も陰陽に関連する言葉です。一般的には「中くらい」「真ん中」「可もなく不可もなく」の意味で使われますが、東洋思想では、「あたる」、さらにいうと「陰陽の合体」を指します。相反する「陰」と「陽」が、組み合わさることで、生成発展し、一つ上に次元上昇をすることができます。例えば、孫子では、良い君主(陽)と補佐役である将軍(陰)の関係が理想的なものであれば、諸侯(近隣国)に付け入る隙を与えないとあります。
「智」の兵法
五つ目の「智」は、一般的な意味では「智恵」のことですが、孫子の本文の中で述べられる「智」の意味を紹介したいと思います。孫子の「智」とは、「利」と「害」の両面思考、つまり陰陽の思考ができることを指します。孫子における将軍の最高の徳は「智」と述べられておりますが、「陰陽」を使って駆け引きを行い、「利」と「害」、つまり敵と味方の間で、有利と不利を支配することができるということです。
「君主」(ため)の兵法(乱世の帝王学)
最後は、「孫子」は君主のための兵法、「帝王学」であるということです。「帝王学」といっても「乱世の帝王学」であり、社稷、民の生活を守り国家を永続させる方法が説かれているということです。著者は、現行孫子の解釈で意味が通じない箇所があること、違和感の理由は、将軍の視点で修正させれているからだと考えています。君主の視点については、次の記事「乱世の帝王学|孫子の解説3」で詳細を解説したいと思います。